第3回 高く売れればよい?「良かった」と思える事業継承の秘訣

「事業を譲って良かった」。
そう思える事業継承とはどのようなものなのでしょうか。希望していた額よりも高額で自分に有利に終えることができた場合でしょうか。それとも短期間で取り引きがまとまった場合でしょうか。
譲った後に後悔することなく、晴れ晴れとした気持ちになれる事業継承にはほかにも大切なことがあります。今回は「良かった」と思える事業継承を行う秘訣についてご紹介します。

◇高く売れればそれでよいのか?

事業を譲る際に気になることのひとつが「うちのクリニックはいくらで売れるのか」ということではないでしょうか。今まで身を粉にして働き、築き上げてきた事業です。より高く売ることができたらそれにこしたことはないと考える方も多いでしょう。

一方で「引き継いでくれるのならタダで譲っても良い」という方もいます。しかし、それでは買い手に信用してもらうことが難しいかもしれません。それに実際には「タダ」ではなくイメージしている金額を持っているはずです。

大切なことはいくらなら自分が満足して事業を譲ることができるのか、具体的な金額をイメージすることです。その満足できる金額を売り手の自分が提示し、それに対して買い手が現れて初めて交渉の場につくことができます。

お金の面で条件を満たす資金力を持った買い手が現れたら、次にすり合わせが必要なのは医療における条件です。金額の面ではクリアできる買い手でも、医療の面において患者さんを安心して引き継げる買い手でなければ事業を譲るのは難しいということになるでしょう。

医療と資金という 2 つの条件がかみ合ってこそ「良かった」と思える事業継承のスタートラインにつくことができたと言えます。売り手と買い手のスタートのイメージがずれたまま走り出したら、ゴールまで走りぬいたとしても決して交わることがないということです。

◇事業継承の時間をとれないときにありがちな「良い人探してきて」の落とし穴「誰でも良いから、良さそうな人を探してきて」

とにかく急いで事業を手放して契約を完了させたいという場合に、M&A の専門家に対してこうした希望を出す方がいます。しかし、これは先述した「医療」と「資金」という事業継承成功のための2つの基本的な条件のすり合わせを行わずに交渉を始めるようなものです。

そのせいで失敗した事例もあります。売り手がイメージする「良い人」と、マッチングを行う専門家がイメージする「良い人」にずれがあった場合です。そのまま交渉を進めた結果「承継後のクリニックをあんな風にされるくらいなら、廃業にすればよかった」という後悔を残した事業継承になってしまうこともあります。

◇成功する事業継承のために必要な期間と流れ

事業継承には早くても 1 年、長いと 3 年ほどの期間を要します。「良かった」と思える事業継承にはどんなに急いでいてもある程度の時間がかかると心に留めて、慎重に進めていく必要があると言えます。

成功する事業継承のために必要な期間と流れ
M&A の専門家に依頼した場合の具体的な流れとそれぞれに要する期間を見てみましょう。

1.M&A の専門家と個別面談:早くて3ヵ月
個別面談を通して、先述した金額面、医療面などの条件を固めます。
医療機関の事業規模、従業員数などの概要を把握するために必要な資料を集め「概要書」を作成します。
概要書の作成と並行して、買い手を探索する際に相手に提示する「ノンネームシート」を作成します。M&A が進んでいるという情報が外部に漏れないようにノンネームシートでは医療機関名などの情報は伏せて作成します。

2.M&A の専門家による買い手の探索:3ヵ月~2年
早い場合では探し始めて 3 ヵ月ほどで買い手が見つかります。一方で、長い場合には 2 年ほど買い手を探し続ける場合があります。その際には 1 年ほどで条件面の見直しを行うなどして戦略を立て直します。

3.売り手と買い手候補の面談から決済:3ヵ月~1年
買い手の候補が見つかったら M&A の専門家を仲介者として条件のすり合わせを行い、ある程度の条件が固まったところで買い手と売り手の面談が行われます。
面談後、双方に話を進めたいという意向があれば基本合意書を作成し締結します。
買い手による買収監査が終了したら最終条件をすり合わせ、最終契約を結び決済します。
このように事業継承をしたいと考えて動き始めてから決済までは早くても1年はかかります。早急に医療機関を手放したい理由があったとしても、それぞれの過程で必要な話し合いの時間を惜しんで進めるとどこかでほころびが生じ、残念な結果になることもあります。

後悔のない事業継承のためには、ある程度の時間がかかることを念頭におき、慎重に時間をかけて進めていくことが大切です。だからこそ勇退を考え始めたときにはまず専門家に相談することをお勧めします。

(2020年10月時点 ※本記事は日本経営ウィル税理士法人より提供を受けています。)

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