第1回 医療機関の事業承継3つのかたち

「M&Aってよく耳にするけど、いったいどういう事業承継の仕方なのだろう?」
事業承継が頭をよぎったとき、承継のための選択肢のひとつとなるのが「M&A」です。ところが、言葉は知っていても詳細はよく分からないという方もいるのではないでしょうか。そこで今回は、M&Aを含め、事業承継の選択肢にはどのようなものがあるか、それぞれのメリットとデメリットはなにかをご紹介いたします。

◇M&Aとは

M&Aは「Merger and Acquisition」を略した言葉です。2つ以上の会社が合併したり、ほかの会社を買ったりする「合併と買収」を意味します。

事業承継と一口に言っても、その方法は大きく2つに分けることができます。息子や娘などの血縁者や親族に医療機関を継いでもらうという「親族内承継」と、それ以外の方などに事業を承継してもらう「親族外承継」です。さらに「親族外承継」にも2つの方法があります。1つ目が、その医療機関に勤務している従業員に承継してもらう場合で、もう1つが医療機関の外から全くの第三者を後継者として探してくる場合です。この事業承継の手段のことを「M&A」と呼びます。

これまで医療法人では「親族内承継」が盛んに行なわれてきました。ところが近年になってはたらき方が多様化し、子どもや親族の職業の選択肢の幅を狭めたくないという考え方を持つ経営者も増えていることから「親族外承継」が増加しています。こうした背景があり、昨今「親族外承継」のひとつとして活発に行われるようになったのが「M&A」です。

◇医療機関の事業承継のかたち3つとメリット・デメリット

事業承継は、これまで経営してきた医療機関の経営主体をただ単に変更すれば良いというわけではありません。事業を譲った後も、信頼して通院してくれている患者様や利用者の方々にこれまでと同様に質の高い医療を提供し、安心して利用して頂けるよう医療機関を貫く「思い」をもつなげていく必要があります。では、それぞれの事業承継の手段にはどのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。

【親族内承継】
<メリット>

  • 医療機関内外の関係者から心情的に受け入れられやすい
  • 後継者を早期に決定できるので、早期教育、長期的な準備が可能
  • 相続などの手段により財産や出資金を後継者に移転できるため、ほかの方法と比べて所有と経営との分離を防ぐ効果が期待できる

<デメリット>

  • 親族内に、医業経営の資質と意欲を併せ持つ後継者候補がいるとは限らない
  • 相続人が複数人いる場合、後継者の決定・経営権の集中が困難となる場合がある

自分が作り上げた医療機関はできれば第三者ではなく親族に引き継いでもらいたいと思うのは自然なことです。それに経営者の息子や娘などが医師だった場合、その方が事業を継ぐことは医療機関ではたらくスタッフたちはもちろんのこと、患者様たちの理解も得やすく、承継をスムーズに行うことが可能です。

一方、親族であるからこそ、近くで医療機関の経営を見てきた結果、自分は別の道を歩みたいという後継者候補の方も多くいます。また、親から子へ事業承継をする場合では世代間での考え方の温度差などから、理念の捉え方などに差異が生まれ、承継がうまくいかないこともあります。

【従業員への承継】
<メリット>

  • 長期間勤務している従業員に承継するので、医業経営の一体性を保ちやすい

<デメリット>

  • 後継者候補に出資持分などを取得する資金力がないことがある

従業員の医師へ事業を引き継ぐことのメリットとしては、その後継者がそれまでの勤務を通して診療方針や経営理念などを熟知しているということが挙げられます。さらに同僚の医師、看護師、薬剤師などのスタッフにとっては、一緒にはたらいてきた仲間がトップに立つということなので理解を得やすいという利点もあります。また、もし親族内に事業を承継する後継者がいないことがあらかじめ分かっている場合では、将来を見越して後継者候補となる人材を採用したり、教育を行うなど、十分な時間をかけた事業引継ぎの準備をすることも可能です。

デメリットとしては後継者にと考えた医師に資金力がなく、経済的な問題で承継が難しいことがある点が挙げられます。

【第三者への承継(M&A)】
<メリット>

  • 医療機関の外から広く後継者を選ぶことができる

<デメリット>

  • 個人債務保証の引継ぎが敬遠されて承継が難しいことがある

親族や医療機関内に後継者候補がいない場合は、医療機関の外で広く後継者候補を探し、選ぶことができます。

一方で、親族や従業員が承継した場合とは異なり、たとえば医療の現場に詳しくない株式会社などが買い手となったケースでは医業経営の一体感を保つことが難しい場合があります。すると、長くその医療機関に勤務し、貢献してくれたスタッフたちにとって、好ましくない結果がもたらされることがあります。

事業承継を果たすまでには、経営者の想いや経営理念の承継、従業員や出資金の承継、後継者選びなど多くの解決しなければならない課題がありますが、これらすべてを自分の力で解決する必要はありません。個人での問題解決が困難な場合には、事業承継のさまざまな問題を解決する手助けを行う専門家もいます。こうした専門家に相談し、力を借りてみるということが後悔のない承継のための一選択肢となるかもしれません。

(2020年5月時点 ※本記事は日本経営ウィル税理士法人より提供を受けています。)

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