第6回 結局のところ、診療所の価値はどうやって決まるのか
「駅前のクリニックビルにあるあの診療所の価値は?」
「もし当院を全くの他人に売却するとどれくらいの価値になるのか?」
事業承継を決意し、引退後の生活を考えたとき「このくらいの額で診療所を譲りたい」という理想額が思い浮かぶと思います。今回は事業の価値算定の考え方を解説いたします。
◇診療所の価値はどう評価するのか?
診療所に限らず譲渡企業の価値算定は、過去の数多くの取引事例によって大凡の価格水準があります。また、最終的には売り手と買い手が合意した価格で決まることを前提としています。
ただし、大凡の算定目安を理解しておくことで相手方との交渉に根拠をもって説明、理解することができます。診療所の価値算定は、主に下記の計算式を使って算出します。
診療所の価値 = 譲渡時点の(① 資産総額 -② 負債総額)+ ③ 営業権 |
---|
①資産総額とは引き継ぐための預金や未収入金、建物、土地、医療機器などの合計額です。通常は譲渡する時点の時価算定をした金額を使います。 ②負債総額とは借入額や未払金、従業員への退職引当金などです。こちらも譲渡する時点の時価となりますが、特に従業員への退職引当金などについては、決算書に表示されていないことがあるため注意が必要です。 ③営業権とは事業の「のれん」や「超過収益力」とも言い、過去にM&Aで買収した会社がある場合などを除き、決算書には表示されてないものです。会計上では「資産」に含まれるものですが、上記の資産総額とは別に計算する方が分かり易いです。 |
上記、資産総額と負債総額は、税理士や会計士であれば簡単に計算はできます。しかし、営業権は、買い手、売り手が合意した金額で決まることになります。
この営業権については、1年あたりの売上からオーナー固有の要素を除外した経費を差し引いて導きだした「正常収益力」に倍率を掛けて算出します。診療所では1倍~3倍程度で取引されていることが多いのが実態です。倍率が低すぎると売り手が納得しない、高すぎると買い手にとっては開業した方が早く事業が立ち上がるイメージが湧くからでしょう。
◇価値を高めるためにすべきこと、しなければならないこと
事業承継に際し、できるだけ付加価値の高い状態にするためにすべきことは2つあります。
1つ目は、身の丈に合わない借入をしないことです。例えば売上を超える負債は、可能な限り整理するということです。借入金が多いと買い手に敬遠される要素となります。それは返済できる期間が長くなり、そこに営業権を付加して承継するとなると、銀行から承継するための融資を受けられない可能性があるためです。
2つ目は、売り手に事業を手渡すまで収益力(利益)を高めるように試みることです。そのためには売上を少なくとも現状維持する努力と、利益を得るため不要なコストを削減していく努力をすることです。
言葉にすると簡単ですが、なかなか継続して実践していくことは難しいことでしょう。特にコロナ禍で減収した診療所は多いです。ただ、予期せぬ事態を除いて売上や利益が安定しているかどうかが重要になります。そのためには、数年先を見据えて価値を高める工夫を考えていくことが肝要です。
(2021年3月時点 ※本記事は日本経営ウィル税理士法人より提供を受けています。)